JAPANESE POP アルバム感想
以前、JAPANESE POP アルバム印象として、ファーストインプレッション的に安藤裕子『JAPANESE POP』のアルバム全体の印象を述べましたが、あれからいくらか時間も経ち、アルバム曲を繰り返し聴き続けたり、同名のバンドライブを体感したりと、1曲1曲に対する印象が変わってきました。
ここであらためて『JAPANESE POP』の感想を簡単にでも述べてみたいと思います。 曲そのものの感想というよりも、私が個人的にそれぞれの曲から感じられたこと、とでも言いましょうか。
1曲目 「私は雨の日の夕暮れみたいだ」
微かなピアノの旋律が少しずつ大きくなっていき、舞台の幕が上がる。
ドライに弾けるビート。
まるで、雨降りの遅い午後のような薄暗く鬱々とした湿度の高い空気を一気に吹き飛ばそうとするかのよう。
メロディーからは、安藤裕子の幻想世界と現実世界の衝突のようなものが感じられる。
もがき暴れて、衝突から新しい世界が生まれることを期待して。
「墜とせ、墜とせ」
この曲が最初に生まれたのは、安藤裕子メジャーデビュー前の、たったひとりで曲を作り始めた最初期の頃だそうです。
2曲目 「健忘症」
長い恋愛期間を過ごしたり、同棲生活でも送ったことのある人なら共感できるかな?
甘い時間と甘い考え。 リアルと幻の狭間にいるような、ふわふわとした生活感。
現実的な大人になれば、いつか忘れてしまうような、ふわふわとした遠い記憶。
何故だか、かつてどんなに愛した人も、いつも聞いてたはずの声から忘れていくよね。
間奏中には、フランス語で、おそらく安藤裕子本人作であろう童話が語られます。
なぜか、森の中での蜂と女の子とクマさんの残酷物語。
今回のアルバムの中では、安藤裕子ねえやん自身が最もお気に入りの曲。
3曲目 「マミーオーケストラ」
安藤裕子ねえやん、女全開。
甘いメロディーに甘いささやき、可愛らしいねえやん。
“I love you” をこれだけ言っちゃったねえやん初めてです。 たぶん。
どうしちゃったの、ねえやん? (笑)
「海原の月」あたりから、ねえやんの歌詞は非常にストレートになりましたね。
以前は、屈託ない言葉には抵抗感をもっていたねえやん。 あえて回りくどい表現をしていたからこその深みというものもあったとは思うんですが。
4曲目 「New World」
出会いと別れを繰り返し、想いは膨らみ萎みを繰り返す。
出会いは定めだったの? 想いさえ定めだった?
出会い一つ一つが新しい世界。
別れもまた、New World.
出会いも別れもすべて希望に繋がっているんだろう。
5曲目 「Dreams in the dark」
安藤裕子の小さな世界平和の唄?
長い冬の曇天の暗闇の中にいても、夢を思い描けるだろ。
いつか厚い雲の切れ目から一条の光が差し、君の笑顔も輝くはずさ。
6曲目 「アネモネ」
シングル「海原の月」のカップリングである、安藤裕子が歌う隠れた名曲「Woman ~Wの悲劇より~」を彷彿させる歌い方のこの曲。 その際に、ねえやんは、作詞家の松本隆氏を「女性が女性たる由縁を歌っている」と語っている。 本来は女性の自分が表現しなければいけない世界を男性の松本隆氏が鮮やかに表現していることに感嘆していたが、この「アネモネ」は、もしかすると、ねえやんなりの女性表現者としての「答え」なのかもしれない。
7曲目 「court」
今回のアルバムの中でもっとも映像が浮かぶ曲。 ピアノ伴奏のみの歌声と歌詞が紡ぎ出す空気感は絶品。 歌詞に登場する小物のチョイスもおしゃれ。
ねえやんの曲の中で、こんなにリアルにせつない曲は初めてでは?
8曲目 「青い空」
アルバムが出るよりずっと以前から、ライブでは歌われていた曲。
この曲に類似しているなと感じるのが、「陽のかげる丘」。 郷愁感と寂寥感の入り混じった曲調と歌詞が似ていると感じる。
何年も前に、切羽詰まった心の内を、ねえやんへの手紙に託した少女へ向けてのアンサーソング?
「死にたい」というあなたに「死ぬな」とは言えないけれど、その代わり、鮮やかな青い空をあなたに見せてあげよう。
安藤裕子ねえやんの、心からの優しさを感じる曲。
9曲目 「Sleep Tight Mr.Hollow」
あなたとの日々は遠くなっても、求める気持ちはストップモーションのように変わらない…
眠っている間ならあなたを忘れられると思っていても、夢の中で会うと幸せすぎて、目覚めるのが怖いよ。
10曲目 「摩天楼トゥナイト」
とても聴き心地の良いメロディーだから、アルバム全体のバランス的に、この曲順にこの曲がきたというのは頷ける。
久しぶりの宮川弾さんの作曲。 ねえやんと弾さんの組合わせはもっとあってよいのにと思う。
11曲目 「問うてる」
2年ぐらい前のライブ初登場時から聴き慣れたこの曲がくると、なんかほっとするね。
一番上手くいっているように見えるねえやんが、うまくいかないものだね、というだけで、
私たちはもっと頑張らなきゃ、と素直に思えてくるものだね。
12曲目 「Paxmaveiti -君が僕にくれたもの-」
今回のアルバム中、もっとも聴きやすい曲。 良い意味でもっとも商業的に練られて作られた感のある曲。
依頼を受けて、それにイメージを合わせてしっかり作ることが出来る、ねえやんのキラリと光る職人技。
映画音楽的とでもいいましょうか。 ポップでありながら壮大感も感じられる。 映画監督を目指したねえやんならでは。
13曲目 「歩く」
三十路を過ぎなければ、この曲は生まれなかったでしょうね。
人生の本番を迎え、これまでのように甘ったれたり、怖気づいていてはいけない。
自分を育んでくれた人のためにも、胸を張って歩いていこう。
やさしさと郷愁と未来への誓い。
———————————————————————————————————————————————————————————
アルバム全体を通して、穏やかながらも秘めた力強さを感じる今回のアルバム『JAPANESE POP』。
一皮むけた大人の余裕を感じる、「新生安藤裕子」を表現してくれたと思う。