『勘違い』 アルバム感想
タワレコでフラゲしてきました、安藤裕子6枚目のニューアルバム『勘違い』。 2011年の安藤裕子混乱期の中で制作した作品とは思えないほど素晴らしいアルバムとなりました。 各曲90秒試聴のときとは私の中で印象がかなり変わったので、もう一度あらためて感想をちょっとばかり。
心身の不調、東日本大震災、妊娠発覚、祖母の死、ライブの二度の中止騒動、出産、子育て、という、安藤裕子の人生においてまさに激動だった2011年~2012年序盤。
必然的に、「死から生」、「終わりからはじまり」が漠然とテーマとなった今作。 しかし、湿度は低く、音楽と距離をとり、深入りしすぎることなく対峙しているよう。
アルバム前半の激しさと錯綜感から、中盤以降に一度終焉を迎え、終盤でおおらかな生命賛歌に至るまで。 それはまるで安藤裕子の半生を味わったような気にさせてくれます。
私は個人的に今作こそ、『JAPANESE POP』のタイトルを冠するべきではないかと感じました。
今作こそ、新生安藤裕子にふさわしいアルバムだろうと。
「勘違い」
安藤裕子自身の幼少期のかげろうのような思い出が、アーティスト安藤裕子の原点であり、核であり、全ての出発点である。 それが、このアルバムのトップに据えられたということに、私はここに安藤裕子の一つの決意のようなものを感じます。
「静と動」、「生と死」、「終焉と希望」、「過去と未来」が多重層に織り込まれている、このアルバムにこそふさわしいオープニングナンバーだといえるでしょう。 安藤裕子自身もこの曲が一番好きだと語っています。
声の多重録音も効果的で、音の世界観に奥行きを感じます。 真夜中に目を閉じヘッドホンで聴けば、この曲の良さがより感じられるのではないでしょうか。
「エルロイ」
ロックテイストのドラムの印象が強いかなぁというぐらいで、途中まで「砂原良徳 Remix」と大差ないと思いきや、突然の転調急ブレーキがかかり、渋い「昭和モダンテイスト」を挟んできたことに驚きました。 そして再びの最終コーナーを一気に立ち上がり、バックストレートを抜けていく爽快感。 「砂原良徳 Remix」と続けて聴くことをおすすめします。
「輝かしき日々」
シングルと全く同じです。
「すずむし」
なんと、デビュー前にはすでに存在していたというこの曲。 幼い少女時代の安藤裕子が反映されているのでしょうか。 さびしさを抱えた少女の眠りにつくまでの妄想世界が繰り広げられているようです。
「それから」
今アルバムの中で、最もポップでキャッチーな曲で、私は大好きです。 アルバムの中間に位置するのにふさわしい。 リズミカルで楽しくて、ベニー・シングスいい仕事してます (笑)
「アフリカの夜」
安藤裕子は80年代ポップス、ニューミュージックの正当な継承者だと思わせる完成度の高さ。 「再生」、「アネモネ」にも雰囲気が近いけれども、より馴染みやすいメロディアスな楽曲に仕上がっています。
「永すぎた日向で」
安藤裕子が自分自身の終わりについて歌ってる曲だということです。 だから、私はせつなすぎて泣けちゃいました。 死を前にして自身の人生を振り返り、最後まで愛を求めることをやめない。 小さい頃から何かのたびに遺書を書く癖があったという安藤裕子。 この曲もその延長線上にあるのでしょうか。
本来はこの曲がこのアルバムの表題曲となるはずでした。 「この作品を最後に歌をやめるのならそれでいいかもしれないが、音楽を続けるんだったらそのタイトルは重い」、という理由でそれはなりませんでしたが。
「地平線まで (Album Ver.)」
「永すぎた日向で」につづく流れでこの曲は沁みます。 弦の繊細さ、ホルンの大らかさが曲の格を上げてくれています。
「飛翔」
やっとフルバージョンで聴くことが出来ました。 「終焉の思い」を超えて、安藤裕子第二章の「はじまり」がここからようやく飛翔したと感じさせる曲です。 タイアップ曲であったのに、なぜシングルカットされなかったのかと思うぐらい、抜群の完成度です。
「お誕生日の夜に」
「ママ」になった安藤裕子の曲ですね。 子どもを授かったことの幸せ母性がほとばしっています。 ここまで素晴らしく素直に曲に出来たことに、私も喜びを感じます。
「鬼」
おどろおどろしいタイトルとは打って変わって、全体的に明るくさわやかで、壮大で、甘い未来への強い希望に満ちています。 「お誕生日の夜に」と同じく、子どもを授かったことによる生命賛歌として、このアルバムの最後を飾るにふさわしい曲です。 アルバムを通して、安藤裕子の終焉から再生というプロセスがここで昇華したと感じます。
現代のポップスの歌い手の中で、これほどまでに自身と自身の音楽に真正面から向き合っているアーティストもめずらしいのではないでしょうか。 この安藤裕子『勘違い』というアルバムは、現代のJ-POPの良心そのものであると私は信じます。
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