安藤裕子×西本智実スペシャルプレミア・シンフォニック・コンサート
2013/2/28、日本フィルハーモニー交響楽団による、Billboard Classics「安藤裕子×西本智実スペシャルプレミア・シンフォニック・コンサート」がBunkamuraオーチャードホールで開催されました。
Bunkamuraオーチャードホールに来るのも、オーケストラコンサートに来るのも初めてだったので、本番前の音出しチューニングの様子や、音響がいかにも良さそうな厳かなホールのプレミアムな雰囲気にしびれました。
開演したのに安藤裕子が登場しないまま、指揮の西本智実氏をはじめとするオーケストラのメンバーによる壮大な『アルルの女「ファランドール」』が鳴り響いた時には、「え、これ本当に安藤裕子登場するの、来るところ間違えた?」と一瞬の場違い的錯覚。
こんなのしょっぱなから、ねえやんにプレッシャーかけてるとしか思えない(笑)
まるで西本智実氏からの挑戦状のような…
やがて拍手とともに安藤裕子ねえやんの登場。 遠目で細かなところは分かりませんでしたが、鮮やかな赤いドレスが舞台で映えていました。 足元はグレーのレギンスだったでしょうか。
西本氏からの挑戦状の答えは、安藤裕子の魂の深淵『ニラカイナリィリヒ』でした。
今回の安藤裕子のスタートとして実にふさわしい。
続く『私は雨の日の夕暮れみたいだ』の体を前後に揺らすボウリング唱法はいつも以上に大きく揺れていて、小さな体から振り絞るように全身で表現していました。
オーケストラアレンジの『Green Bird Finger.』も素晴らしかった。
「ねえやんの歌声がオーケストラ演奏に負けてしまうんじゃないか?」と、実は私は密かに心配していたのですが、それは全くの杞憂でした。 歌声が負けていないどころか、むしろ凌いでいるとさえ感じられ驚きました。 単純なマイク音量のことではなく、伸びやかで迫力のある声量で、安藤裕子のこのスペシャルコンサートにかける気迫が感じられました。
けれど、打って変わってMCは、西本氏の、まるで宝塚歌劇団の男役?または女性代議士のような聡明でハキハキ堂々とした語り口に対して、どこか自信無さげなねえやんのオドオドしたの語り口とのギャップに、最初から会話がちぐはぐな感じでうまくかみ合っていなく、でもそれがむしろ観客に受けていました(笑)
今回、客演ということもあって、いつもよりおしとやかで「借りてきた猫」的なMCの安藤裕子ねえやん。 これはこれでかわいいかも。
『エルロイ』は、Remixバージョンからとうとうオーケストラアレンジまで誕生しましたね。 ライブにおいて第二の『黒い車』のような存在になりました。
そして、交響曲バージョン『Lost child,』で、私の涙腺はいきなり決壊してしまいました。 安藤裕子の響き渡る美しい歌声に嗚咽を我慢するのが大変で、もうすぐで声を出して泣いてしまいそうでした。
こんなちっぽけで幼い魂を慰める曲がこんな大舞台で披露されるなんて。 曲そのものにも泣きましたが、「よくここまで来れたね」という、僭越ながらわが子の成長を見守ってきた親の気持ちのような、そんな感動にも似ていました。 言うまでもなく、これまでで最も壮大で美しい『Lost child,』でした。
そして”ずるい”と感じるぐらいその感動を『海原の月』で畳みかけてきました。
涙を拭うのがせわしないほど…
映画主題曲にふさわしく、感傷的な響きのヴァイオリンやトランペット、そして轟くティンパニが胸に沁みわたりました。
曲が終わり、次どうしてよいかわからないという状態のねえやん。
「ふぇっ!?」と思わず叫んであたりをキョロキョロ。
対して落ち着いた語り口の西本氏「前半、終わりました」。
会場爆笑。
神憑り的な歌唱をする「アーティスト安藤裕子」の変身が解けて、一変して素のアンドウユウコに戻ったその瞬間のギャップが堪らない。 さっきまで大活躍していたスーパーマンが一瞬で一介の新聞記者に戻ったような妙な安心感。 完璧をめざすスーパースターとは程遠く、愚直で繕うことを知らない、自分たちとまるで変わらない身近な等身大の人間が、与えられた天命に従い健気に頑張っている。 そんなところが彼女の最大の魅力なのかもしれない。
15分休憩ののち、現れたのは安藤裕子と、おなじみピアノの山本隆二氏のふたりのみ。
「私たちは平和な日常を生きているけれども、今まで命を繋いできてくれた先人たちが、戦争や病気や災害の中、多くの仲間が亡くなってもなお生き延びてくれた人たちがいて今の私たちがいる。 これから未来を担う人たちのための曲です。」
やっとねえやんらしいMCとなった後に演奏された曲は、例の新曲『グッドバイ 』(Good bye)。
ピアノのみの伴奏で、伸びやかで美しい安藤裕子の歌声が響き渡る。 琉球音階のようなメロディーが「蒼茫」という言葉を彷彿させます。 連綿と続いてきた人類の歴史のその果てに、私たちが意味を持って生かされているということへの感謝と、そして繋いでいく未来への希望が歌われている曲でした。
『たとえば君に嘘をついた』 これまた美しい選曲。 今までのライブで演奏された中で最高に力強く伸びやかでした。 これだから安藤裕子ファンはやめられない(笑) 毎度毎度成長してくるんだもんね。
『地平線まで』 まさにオーケストラ演奏の本領発揮といったところでしょうか。 ヴァイオリンの繊細さ、ホルンやトロンボーンの雄大な響きが、眼前に地平線を映像化してくれるようです。
『隣人に光が差すとき』 この曲を歌うためにプロとして歌い続けてきたといっても過言ではない因縁の曲。 それをこの場で歌うことで、ようやくその因縁は昇華したのではないでしょうか。
とても美しいピアノのイントロが鳴り響く、新曲『愛の季節』。 やばい、これはやばい、名曲の予感!
安藤裕子として珍しいタイプの壮大でメロディアスな楽曲で、個人的な愛から始まり普遍的な愛までを唄っているような、そのせつない旋律に涙を滲まさずにはいられませんでした。 また、オーケストラ演奏こそふさわしい楽曲でもあると思いました。 次回の新アルバムに、もしこの曲が入るのならぜひフルオーケストラバージョンで録音し、ラストナンバーの役を担ってもらいたいと切に願います。
『歩く』 やはりこの曲がきました。 安藤裕子のものすごい声量、そしてアウトロのオーケストラ演奏への繋がり、いよいよ感情を絶頂にまで高めます。
『聖者の行進』 定番通りのファイナル曲。 普段はビートの効いたドラム演奏が印象的な曲ですが、今回はティンパニとシンバルなどでより「行進」らしさが出ていると感じました。 歌声は力強さと繊細さを織り交ぜ、エンディングに向けてどんどん盛り上がるオーケストラ演奏は魂を揺さぶられるような感動でした。 惜しみなく続く拍手でホールが包まれたのでした。
いやー素晴らしかったー ほんと感動したー!
今回、進行の面で少々打ち合わせ不足の詰めの甘さはあったけれど、元々違う土俵の安藤裕子陣とオーケストラ陣とのギャップがあるわけで、観客はむしろそれを楽しむことが出来たので、その点は結果オーライなところでしょう。
安藤裕子デビュー10周年を飾るのに最高のステージであるだけでなく、歌を歌うことを志した日から15年に及ぶ安藤裕子の音楽活動の総決算であり、そしてこれからまだまだ続く”未来の安藤裕子”との間の大きな節目となる記念碑的な素晴らしいスペシャルコンサートでした。
亡くなったお祖母さんにも見せてあげたかったですね。
セットリスト
- ビゼー:アルルの女より「ファランドール」
- ニラカイナリィリヒ
- 私は雨の日の夕暮れみたいだ
- Green Bird Finger.
- ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
- エルロイ
- Lost child,
- 海原の月
- グッドバイ (新曲)
- たとえば君に嘘をついた
- マスカーニ:「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲
- ドビュッシー:ゴリウォーグのケークウォーク
- 地平線まで
- 隣人に光が差すとき
- 愛の季節 (新曲)
- 歩く
- 聖者の行進