映画『ぶどうのなみだ』 レビュー

安藤裕子がヒロインとして出演した映画『ぶどうのなみだ』 レビューです。 物語の大筋においてのネタバレはないですが、未見の方で、少しでも内容を知りたくないという方はそっとページを離れていってください。

日本の北海道空知地方の麦作兼ぶどう栽培農家という設定ですが、着ている服や小道具、話し方も北海道弁の欠片もなくヨーロッパ寓話の本の中の世界のようで、牧歌的なぶどう畑の風景はまるで南仏の地中海式農業。 安藤裕子の『ドラマチックレコード』のPVにも通じる、「現代日本のはずなのに昔のヨーロッパ」的センスでまとめられています。 これが「大人の絵本」と評されている所以です。

コート・デュ・ローヌ産ワイン / アンモナイトの化石 / ぶどうのなみだパンフレット
南仏コート・デュ・ローヌ産ワインと、私が所有するアンモナイトの化石(1億5千万年前 ジュラ紀前期のもの)

そんなファンタジックでふんわりとしてやさしい世界で、音楽を弾き飲んで食べて笑って過ごすだけの映画だと思っていたら大間違い。 冒頭からもそうですが、シーンの半分以上が静かでシリアスな場面が続きます。 この映画が表したいのは「人間のリアルな心情」。 それをはっきりと浮かび上がらせるために、あえて現実世界にある些末な理屈や道理や風景をノイズとして排除し、100年ぐらい前の南仏イメージのような、現実離れして単純化された世界を提供する手法で物語を展開させたのではないでしょうか。

安藤裕子 / 大泉洋 / 染谷将太 ぶどうのなみだ

たゆまぬ努力と愛おしい他人との繋がり、優しくも厳しくもある自然と、ゆっくりと流れる時間が合わさり生み出される恵みの中にこそ、人の本当のしあわせはあるのかもしれない。

一見やわらかくみえる映像の中にもはっきりとした輪郭が存在していました。 深く悩む人間の姿、光と闇のコントラスト、風や雨や土の匂いがそこにある。 「人」との繋がりは一見単純のように見えて実はずっと根っこの方で縺れたまま。 抜けるような空知の青空と、叩きつけるような雨を受け止め、生きる者の懐となりワインの味にもなる「土」。 そしてそのワインを熟成させるのに必要な太古から流れる「時」の象徴として、その土の中から掘り出されたアンモナイトが登場するのです。

安藤裕子(エリカ) ぶどうのなみだ

そんな場所から出てくるわけないでしょと、私は内心スクリーンにツッコミを入れていましたが、元々空知地方は太古の昔は海の底だったそうで、アンモナイトをはじめとする古生物の化石が多く出るところだそうです。 もちろん、それでもちょっと掘ったぐらいで出てくるものではないわけで、ここも舞台上必要な要素として寓話的に彩ったわけです。

安藤裕子(エリカ) ぶどうのなみだ

いつも陽気な大泉洋が、この映画の中では一番笑わない役どころ。 主人公は暗い軸に徹し、安藤裕子演ずるエリカをはじめ、周囲の人々の働きかけでその軸が少しずつずれていくことにより物語はゆっくりと展開する。

エリカ(安藤裕子)は、ある日ふらりとアオ(大泉洋)やロク(染谷将太)の畑にやって来て、なぜかダウジングで示された場所の穴掘りを始めるという、かなり変わったキャラクター。 ガラッパチだけど人懐っこく、人も犬も自然と寄ってきて幸せの輪が出来る。 どうやって生計を立てている人なのかは全く不明。

安藤裕子(エリカ) ぶどうのなみだ

映画館のスクリーンに大写しになる安藤裕子の顔なんて初めて見るから不思議な感覚でした。 とても表情が豊かで美しかった。 演技は思っていた以上に良くて、普段から見てるファンの目線もあってか、「演じているエリカ」と「安藤裕子の自然体」を揺らぐように行ったり来たりする不思議さも感じられました。

ライブ中、心を裸にして本気で涙を流し歌う安藤裕子の姿を知っているからこそ、演じているはずのエリカの見せる美しい泣き顔が、歌い手としての安藤裕子そのままだと思ったときには、「安藤裕子の演技がとても自然で上手いのか?」それとも、「安藤裕子の素として泣いたのではないか?」というなんとも心地よい混乱に不思議な感動を覚えたのでした。

大泉洋(アオ) ぶどうのなみだ

ちなみに、劇中で「安藤裕子そのまま」が出ていたカットがありました。 それは、高校生か大学生ぐらいの若い娘時代のエリカ役に扮した時、手首のハジチタトゥーが、一瞬ですがバッチリ大きく映っていたところです。 知らない人は、その後にエピソードとしても出てこないから、「あれ何だったんだ?」って気になった人もいるかもしれません。 だって清純そうな格好をした、まだ10代ぐらいの娘さん(という設定)がタトゥーなんか入れちゃってるんですから(笑)

染谷将太(ロク) ぶどうのなみだ
 
また、安藤裕子はあるインタビュー記事の中で、『風の谷のナウシカ』みたいだと、自分の着ていた風になびく真っ赤な衣装について語っていましたが、それは中世ヨーロッパの田舎娘を描いた絵画などで見受けられるようなものでした。 そして、偶然でしょうけれども、この映画内においても原作漫画『風の谷のナウシカ』を彷彿させるような場面がいくつかあったように私には思えました。

風の谷の日常生活の中で、ぶどうを育てるなどして、腐海のほとりの荒地を耕し土とともに生きる人々の姿が、主人公アオやロク、その死んだ父親の姿に重なりましたし、また、エリカが心情的に幼い少女時代に戻るために髪を短く切り、ずっと長く疎遠になっていた母親に緊張感をもちつつ静かな足取りで会いに行くところは、毒を盛られて気がふれてしまった母君にクシャナが会いに行くという印象的なシーンとオーバーラップしました。

ついでにいうと、原作漫画『風の谷のナウシカ』は、安藤裕子が某雑誌のコーナーでおすすめの本として紹介したこともあったもので、私にとっても中学生の頃からのバイブルのようなものです。

ぶどうのなみだ

この映画は、とてもかわいらしくおしゃれな料理がふんだんに出てきて、それを本当においしそうに笑顔で食す場面が多く、夕飯前に観ていた私のお腹ととなりの人のお腹が鳴り止むことはありませんでした。

安藤裕子(エリカ) / 大泉洋(アオ) ぶどうのなみだ

映画の最後に、熱心な安藤裕子ファンにとっては衝撃の場面も!! ……ありますが、とにかく、安藤裕子の新たな境地を切り拓いた『ぶどうのなみだ』は一見の価値ありです。

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